田舎トラックとツキを喰らう鳥





真っ青な空には何もなかった。

1本の飛行機雲を除いては。


「今日もいい天気だなぁ。」

田舎トラックは今日も大きい車体を粗い道に揺らす。

仕事を終えた運転手は、顎髭を軽く撫でると頭に巻いたタオルを外して運転席で昼寝を始めた。

汚いがそれが美しくもある道端は静かで、そこに住む虫や鳥の声だけが小さく聞こえる。

所謂"のどか"だ。


2人の少年と1人の老婆がやってきて、窓をノックして運転手を起こした。

「おじちゃん!いつもの買いにきたよ!」

「今日もきてくれたのかい!ちょっと待ってな!」

後ろに積んだ荷物から幾つか物を取り出して少年たちの前に並べた。


こま、けん玉、竹蜻蛉、だるま落とし


少年2人は話し合いながら竹蜻蛉を2つ選んだ。

「毎度あり!飴もオマケであげよう。」

お釣りと一緒にりんご味の飴を3つ手渡して3人を見送ったあと運転手は後ろから竹を取り出して、切ってヤスリで磨いた。


磨いて出た粉をゴミ箱に吹き払って、綺麗になった表面を撫でるとみるみるうちにそれは鳥になった。


その頃にはすっかり暗くなり、飛行機雲のみだった空には賑やかな光の模様がついていた。


鳥は開けた窓から空に向かって飛び立ち、それを運転手は笑顔で見つめる。


地上から見る鳥は星を食べるようにして飛び回り、徐々にその大きさを増していった。


気づいた頃には既に月をも食べてしまいそうな程大きくなっており、体を大きく靡かせながら飛んでいる。


夜が朝につながる時まで飛び続けた鳥はやがて白い軌道を残しながら何処かへ消えていった。


明くる朝、真っ青な空には何もなかった。

1本の飛行機雲を除いては。


「今日もいい天気だなぁ。」

田舎トラックは今日も大きい車体を粗い道に揺らす。