舞踏会
ここに太陽は無く空すら無い。
ここに光は無く影すら無い。
無い。
少女は今日も大好きな鼻歌を歌いながら、軽快な足取りでそんな砂場を歩き回った。
こちらに助けを求めているような、一枚の大きな写真を見つけた。
「あらあら砂塗れじゃない。」
少女が砂を払うとそこに写されていたのは爽やかな男性。いつの写真だろうか、中世ヨーロッパの貴族の様な服を着て笑っている。
「一体何方かしら。立派な紳士ね惚れてしまうわ。」
写真に乗った残りの砂を一生懸命に払うとまた歩き出した。
今度は大きなボタンと目が合った。
「あらどうも。今日はいろんな方と出会うわね。貴方も此処へ忘れられたの?一緒に踊りましょ。」
大好きな鼻歌は少し大きく膨らんで、少女はボタンを抱えて踊り出した。
少女は水も食料も要らず、光も影も、太陽も空さえも必要としなかった。
それは想像以上に長い間続いた。
軈て沢山の踊り人が集まり、少女は舞踏会を開くのであった。
箪笥の中、ダンスは続いた。
引き出されることもなしに。永遠に。