アルデバラン

「女の子はピンク色をしたダウンジャケットのチャックを締め切らないまま、カーナビが強く光る車の中で揺られながら寝ていました。 「ついたぞ。」 お父さんの一言で起きた女の子は目を擦りながら窓から外を見ました。丘の上でした。 普段と違い、光があるの…

雪降る思考とその回路

朝の天気予報は曇りを告げたが、生憎降る水は雪とともに私の傘を濡らし続ける。 昔よく遊んだあのゲームの優しい音楽を思い出しながら、私はその音色を聞き、匂いを嗅いだ。 離れた所にいる貴方は、いつ見ても斜め上を遠い目で見つめていた。 俯きつつ視線を…

辿る標

舞う葉も空も、木々の隙間を潜り抜けた風も、全てが赤に澄んだ暮れのこと。 転がるビニール袋を追いかけていた僕は、気がつけば迷子になっていた。 元から僕に居場所なんてありはしない。 しかし此処は他の場所と違って、幾ら見渡しても人間が目に入ることは…

幽閉画家とその友達

そこは白で囲まれた世界。 彼女は出口すらないその部屋から、一歩も出ることができません。 気がつけば幽閉されていた彼女は外を知らないのです。知る術もない。 全てが白でしかないその世界。 ひとつの大きな額縁を除いては、彼女の目に入るものは何もあり…

眞惧カップ

寝っ転がったラジカセが言う。 「お早う御座います。8月52日、火曜日です。 天気は曇り。最低気温30℃ 最高気温80℃と、非常に過ごしやすい一日となっています。 洗濯物は干しっぱなしで大丈夫そうです。口角を緩めるのには良い日和でしょう。」 私はロッキン…

朝夜

目が覚めると私は既にベッドの上に座っていた。昨晩は酷く荒れた空模様で、多分、疲れ果てた私は横になることなく眠りについた。目の前に飾られたソープフラワーが何時に無く輝いて見えたのは言うまでも無い。気怠さの中に心地良さを感じる程であったが、視…

舞踏会

ここに太陽は無く空すら無い。ここに光は無く影すら無い。無い。少女は今日も大好きな鼻歌を歌いながら、軽快な足取りでそんな砂場を歩き回った。こちらに助けを求めているような、一枚の大きな写真を見つけた。「あらあら砂塗れじゃない。」少女が砂を払う…

田舎トラックとツキを喰らう鳥

真っ青な空には何もなかった。1本の飛行機雲を除いては。「今日もいい天気だなぁ。」田舎トラックは今日も大きい車体を粗い道に揺らす。仕事を終えた運転手は、顎髭を軽く撫でると頭に巻いたタオルを外して運転席で昼寝を始めた。汚いがそれが美しくもある道…

妖怪は思い出の

誰もいない。見え隠れする月の下で、妖怪は言いました。「俺は恐るべき生き物さ。さあお前は何処行くおチビちゃん。」女の子は妖怪をテディベアを見るような目で見ては手を振って口角を上げました。妖怪は驚き戸惑いましたが、刹那に浮かべたその慌てふため…

酒場脇寒光

[1.居場所]この時間はもう肌寒くなってきて、いよいよ今年も僅かだ。暗くなるのが早いとやっぱり私が必要になるようで、仕事が増える。給料?そんなのはない。ブラックな職場だが、皮肉なことに私は黒を照らさねばならないという役割がある。まぁ夏の時期…

誰かの気まぐれ日記

[1.隣のノッポ]塀にヒョイと飛び乗った僕は黒い毛並みを薄汚く輝かせながらちょこんと座り、隣のノッポに話しかけた。「君は毎日立っていて疲れないのかい?誰も気にすらしてくれないし。」ノッポはいつも立っている。どんなに冷たくても暑くても。人々は…

お姉さんの唄声

[1.明日はねえ]僕は明日ね、学校の皆と遠足に行く。予定だったんだ。でも昨日から熱があるんだよ。下がらなそう。パパとママは治るといいねって言ってくれるけど、こんな調子じゃ多分まだ下がらない。明日皆は動物園に行くんだって。僕は動物さん達に何回…

朝ぼらけの夢物語

[1.日々]「行ってきます。」誰もいない木材で囲まれた空間に私はそう言い、昔からの相棒である自転車に跨った。辺りが日光を漸く受け取る頃、今日も私は意味もなく空気を斬る。周りには森、川、田んぼ、それから…いや、この辺はなんにもない。田んぼ道を走…

嫌われ

[1.お早う]目覚ましの音で俺は目を覚ました。俺は6時半にそいつをセットしたはずだが時計の針は短いほうが7と8の間。長いほうが6。今日は学校だったが、間に合うことはないだろうと思い遅刻して行くことにした。俺はゆっくりと顔を洗う。溜息を零しながら…

アキレ森にて秋を知る

[0.落ちる]ある日、霧の立ち込める森の中、1人の少年が迷い込んだ。冷たい空気をかき分けながら、せっかちな足取りで落ち葉を踏みつけ、更なる深部へと進む。気がつくと開けた広場のような場所に到達していた。中心に大樹が1本。たんぽぽの綿毛が宙を浮か…